「予防歯科」が必要な現代、ついに画期的なサービスが実現

 みなさんは定期的に歯科医院に通っているだろうか。虫歯や歯周病を予防するには、日常のケアが必要なのは言うまでもない。虫歯や歯周病は放っておくと進行するだけでなく、重大な全身疾患につながる危険性が高いことが、最近の研究で明らかになっている。
 そのため、予防に力を入れる歯科医院が増えている。こういった状況を背景に、オンラインで歯に関する相談ができるサービスが登場し、注目を集めている。
 スマホで小児歯科医に相談「ブラシる」
 「ブラシる」は、子どもの歯や口の悩みを、スマホで小児歯科医に相談できるサービスだ。対象は0歳から12歳まで。月額980円、月に1度10分間相談に応じてくれる。何度も相談したい方には、相談し放題プランも用意されている。
 昨年7月に始まったサービスだが、親御さんからは「子どもが歯磨きをしない」「歯並びが気になる」「ストローでうまく飲み物を飲めない」「フッ素はいつから塗布すればいいの」と、こんな相談が次々と届いている。対応するのは、小児歯科専門のドクターである。
 このサービスを立ち上げた株式会社NOVENINE(ノーブナイン)代表取締役・歯科医師の竹山旭さんと代表取締役社長の廣瀬智一さんに取材をした。
 「お子さんは6歳から10歳までに乳歯から永久歯に生え変わります。100歳まで生きることが珍しくなくなった今、永久歯は70年、80年使い続けなくてはなりません。そのためには小さい頃から適切なケアを続けていくことと正しい知識の習得が大事です。とはいえ、親御さんが忙しかったり、体調が悪かったり、近所に小児歯科医院がない場合もあります。そういった方が気軽に利用できるサービスが必要だと考え、立ち上げました」(竹山医師)

「マイナス1歳からのオーラルケア」を提唱
 使い方はシンプルだ。名前や連絡先、希望IDを入力し、予約カレンダーから希望のプラン、ドクター、日時等を選択して予約。時間になると事前に指定した通信方法(Facebookメッセンジャー、スカイプ、電話)で相談を開始。こういった流れになっている。画像や動画も送ることができるので、詳しい相談が可能だ。ドクターから治療が必要だと示唆された場合は、最寄りの歯科医院へ行けば良い。
 「当社は、『マイナス1歳からのオーラルケア』を提唱しています。どういうことかと言いますと、赤ちゃんは無菌状態で生まれてきます。虫歯や歯周病にかかっているご家族が、赤ちゃんに食べ物を口移ししたり、大人が使うお箸で取り分けて食物を共有したりすると、感染力の強い大人の虫歯菌が、子どもの幼若な状態の歯に感染してしまい、一気に虫歯の進行度を早めてしまう可能性があるのです。こういったことは知っているか、知らないかの違いです。妊娠をきっかけに、ご両親やご家族が虫歯になりにくい子どもの育て方を学び、お子さんが産まれるまでに大人の口腔内環境を整えておいて欲しいと考えています。そういう意味で『マイナス1歳からのオーラルケア』を推奨しているのです」(竹山医師)
株式会社NOVENINE 代表取締役・歯科医師の竹山旭さん。自身も小児歯科の専門医である
 9月からは、新サービスも始まる。
 「歯や口腔の状態は、人によって様々です。歯並びはどうか、矯正器具を装着しているか、入れ歯はあるか。専門医が個々の状態を把握して、その方に最適なオーラルケアグッズ(歯ブラシ、歯磨き粉など)を定期的に配送するサービスを始めます」と廣瀬さんは計画を話す。
 正しい歯磨きの方法などを動画で提供して、予防に力を入れていく方針だ。
 「『ブラシる』やグッズの定期配送サービスは、第一歩にすぎません。当社が目標とするのは、予防歯科の普及と定着です」(廣瀬さん)

Z 口臭から口腔環境を可視化
 現在、画期的なプロジェクトが進行している。
 「毎日の歯磨きの際、口臭から口腔環境をスクリーニングして、それを手軽に可視化する電動歯ブラシを開発しています。この歯ブラシを使うことで歯周病や虫歯の予防、重症化の抑制が可能になります」(廣瀬さん)
 歯周病とは、歯肉炎と歯周炎に大別される。歯肉炎は歯茎が炎症を起こしている状態である。進行すれば歯と歯茎の境目にある「歯周ポケット」に菌が繁殖し、歯の土台となる歯槽骨が破壊されていく。その結果が歯周炎で、重症化することで歯を失ってしまう疾患である。さらに慢性的に歯周病に罹患していると、重大な全身の病気につながることもあり得る。
 「近年は、歯周病と全身疾患の関係についての研究が進んでおり、多数の研究報告があります。例えば糖尿病、リウマチ、低体重児出産、アルツハイマーなどは、歯周病と深い関係があると報告されています。以前から、歯周病は糖尿病の合併症の一つと言われてきましたが、歯周病になると糖尿病の症状が悪化するという逆の関係も明らかになってきました」(竹山医師)
 また、妊娠中の女性が歯周病に罹患している場合、低体重児出産の危険度が高くなることも指摘されている。歯周病菌が血中に入り、胎盤を通して胎児に感染する危険性が報告されている。
 「他にも、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞、高齢者に多い誤嚥性肺炎にも歯周病が関与しています。国立循環器病研究センターの研究では、心臓から歯周病菌が見つかった症例もあります。このように歯周病は、全身に大きなダメージを与えてしまうのです」(竹山医師)
 平成23年歯科疾患実態調査報告によると、極めて軽度のものを含めると20歳以上の8割が歯周病に罹患しているか、予備軍であるという調査結果が出ている。歯周病は毎日の歯磨きだけでは完全には予防できない。いち早く見つけて、適切な治療を受けることが必要であることは間違いはないが、そもそも歯周病にならないように予防を目的としたメンテナンス通院(予防通院)が必須であると結論づけられている。
 歯周病をスクリーニングする電動歯ブラシは、来年夏の販売を目指して開発が進んでおり、既存の電動歯ブラシと同等価格で一般販売ができるよう試作を重ねている。
 「日本は国民皆保険制度があるおかげで医療費は諸外国より安価に抑えられています。その優遇的な環境の反面、予防の概念が根付いておらず、多くの歯科医療施設が存在するにも関わらず、歯や口腔に関しては決して健康とは言えない状態です。私たちが目指すのは、予防歯科が当たり前になる社会です。誰もが歯や口腔に関する正しい知識を持ち、正しいケアを習慣化していく社会を実現していきたいと考えています」(竹山医師)(吉田由紀子/5時から作家塾(R))
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