新型コロナ:ナカニシ、コロナ禍で際立つオーナー経営の強み :日本経済新聞
ナカニシ、コロナ禍で際立つオーナー経営の強み
歯科治療器具製造のナカニシの中西英一社長は就任20年をコロナ禍まっただ中で迎えた。主力市場の欧米がロックダウン(都市封鎖)という非常事態に陥るなか、販売拠点には営業継続を指示。封鎖解除後のシェア獲得につなげた。創業家3代目の中西社長は「オーナー経営だからこそ、苦境時もリスクをとった経営判断ができる」と話す。
ナカニシは歯科医が患者の歯を削るのに使う「ハンドピース」の製造販売が主力の医療機器メーカーだ。中西社長の祖父である敬一氏が1930年に創業し、父の崇介氏、英一氏と経営のバトンを引き継いできた。
中西社長の就任は上場を2カ月後に控えた2000年5月、35歳の若さだった。当時のハンドピース市場は欧米勢が強く、ナカニシの世界シェアは7~8%にとどまっていた。
中西社長はブランド力の強化と海外販売網の自社展開に取り組み、就任から20年で世界シェア25%を誇るトップメーカーに育て上げた。
08年のリーマン・ショックなど逆風もあったが、シェア獲得に合わせて業績も拡大。18年12月期の連結売上高は365億円、純利益は75億円とそろって過去最高となった。就任直後の01年2月期と比べた伸び率は売上高が4.1倍、純利益が5.5倍に達する。
上場後もナカニシの大株主には中西社長ら創業家が名を連ねる。中西社長はオーナー経営の利点を「背負えるリスクの度合いがサラリーマン経営者とまったく違う」と話す。失敗すれば昇進に響きかねない会社員と異なり、「自分の分身である会社を守るため、失敗を恐れず果敢に決断しなければいけない」。
大胆な判断が生きたのが、4~5月の新型コロナウイルスの感染拡大期だった。主要市場の欧米で都市封鎖が相次ぎ、顧客の歯科医院も多くが休業するなか、各地の販売拠点に「解雇はしない。できる範囲で営業を継続してくれ」と指示。従業員の一時帰休を決めた競合メーカーとは対照的な決断だった。
20年1~6月期は連結売上高が前年同期比21%減の136億円、純利益は同39%減の18億円と大幅な減収減益に見舞われたものの、「都市封鎖中の対応が医師から信頼獲得につながり、封鎖解除後はシェアを拡大できた」(中西社長)。トップダウンの経営判断が功を奏した形だ。
とはいえ、20年12月期は2期連続の減収減益を見込む。25年12月期に連結売上高で500億円を目指す6カ年の中期経営計画を2月に発表したばかりだが、出ばなをくじかれた格好となった。高い目標達成に向け、オーナーならではのスピード感ある経営判断を下せるか。中西社長の手腕に注目が集まる。
(宇都宮支局 上月直之)