歯ブラシから電力まで歯科医に販売 歯愛メディカル :日本経済新聞
歯ブラシから電力まで歯科医に販売 歯愛メディカル 支える会社(下)
歯愛メディカルは7月、新電力のワンレクトホールディングス(金沢市)と四つ葉電力(大阪市)を子会社化し、電力小売りに参入した。「全国の新電力と連携を進めて、電力小売りの連合体を作る」。清水清人社長はさらなる買収や提携も視野に入れる。

住宅会社と提携し、歯科医院の設計をパッケージ化した(イメージ図)
壮大な構想を掲げる歯愛メディカルだが、エネルギーの会社ではない。歯科医向けに歯ブラシや手袋といった消耗品を売る通販や、レントゲン機器などの納入で売上高の84%を稼ぐ。歯科医が求める商品やサービスならば、分野にこだわらず幅広く提供する。
電力も2016年にNTTグループの新電力、エネット(東京・港)の取次事業者となり、約1万3千件の歯科医院に供給してきた。通販の購入額の1%を電気料金から割り引くといったサービスも展開する。新電力の買収により電力の調達にも関与でき、値下げの余地が広がる可能性もある。電力を1つの武器として、歯科医を囲い込むのが狙いだ。
厚生労働省によると、20年5月末時点で全国に約6万8000施設の歯科診療所がある。同時期のコンビニエンスストア(5万6千店)を上回り、競争は激しい。歯科医は消耗品代や光熱費をなるべく抑えたい。その需要に着目したのが、歯愛メディカルだ。16年にプロ投資家向けの東京プロマーケット、17年にジャスダックに上場した。
11日に発表した20年1~6月期の連結決算は、売上高は前年同期比23%増の169億円、純利益は58%増の11億円だった。通販で抱える歯科医6万件の顧客基盤が、成長の源泉だ。新型コロナウイルスの感染拡大で、手袋や消毒液の売れ行きが増える追い風もあった。
清水社長の前職は歯科医だ。消耗品の値段の高さに疑問を感じ、2000年に歯愛メディカルを設立した。当初は歯科医の仕事をこなしながら、休診日に商談をこなしていたという。
今は経営者一本だが、経験は生かされている。6月、住宅会社2社と業務提携した。「全てオーダーメードだった歯科医院の設計をパッケージ化する」(清水社長)のが目的だ。自身の歯科医時代を踏まえ、医院に適した建屋のモデルプランを作った。資材の調達費や工程を削減し、価格を従来の半分程度に抑えた。
最近は医療技術の開発や資材の製造にも踏み込んでいる。主要株主の産業ガス大手、エア・ウォーターと連携し、歯の神経を培養して治療が必要な歯に移植する歯髄再生治療を実用化した。治療に用いる詰め物などの歯科技工物の生産にも着手している。歯科医以外のマーケットでは、3月に幼稚園・保育園など向けの通販にも参入した。
領域を広げる背景には危機感がある。矢野経済研究所の調査によると、国内の歯科機器や材料の市場規模は17年度実績で2700億円。12年度比で1%減少した。わずかなマイナス幅とはいえ、少子化による市場縮小は免れない。歯科医向けというブルーオーシャン(競合の少ない有望市場)で培ったノウハウをどんな分野で生かすか、見極めが重要になる。
(毛芝雄己)