虫歯の人が妄信してしまう危険な歯科医5例 | 健康
虫歯の人が妄信してしまう危険な歯科医5例
インプラントが「骨を突き抜ける」ケースも
2018/08/19 8:00

「抜歯しかない」と言われても信じてはいけない(筆者撮影)
「悪質な歯医者は、ごく一部。それをマスコミが強調するので、患者に不信感が広まってしまった」
歯科治療の問題点を報道すると、関係者からこんな〝逆批判〟が返ってくるが、本当に一部の問題なのか、私は疑問を抱いている。
拙著『やってはいけない歯科治療』で、モラルを疑うような歯科治療の実態をレポートしたところ、全国の患者から深刻なトラブルの相談が次々と寄せられてきた。「もっと早く本を出してくれたら、歯を失わずにすんだ」という悲痛な声もある。
そこで今回は、歯を守るために、知っておくべき5つの実例をお伝えしたい。
case.1 「画期的な◯◯式治療法」の正体
画期的な虫歯治療と称するものが、いくつか存在する。その一つは、「虫歯の穴に薬剤を詰めて封鎖、1年以上かけて除菌しながら、自然治癒力で治してしまう」というもの。これを推し進める中心的な歯医者は「名医」としてテレビで紹介され、本はベストセラーになった。
ただし、有効性が確立されている治療法は、保険適用になるのが一般的。なのに、これらの画期的治療法とされるものは自費診療で、決して安くはない費用がかかる。実施している歯医者も、ごくわずかしかいない。
普及しない理由について、中心的な歯医者は、こう主張している。
"虫歯が自然に治ったら、患者以外に誰の利益にもならないので、広まらないように圧力がかかった"
だが、現実は、この画期的治療法が不成功に終わり、後始末を引き受けている歯医者が少なくない。
こうした独自の治療法は「○○式治療法」というように、発案者である歯医者の名前を冠することが多い。現行法では、正式な臨床試験で有効性が確認されていない治療法でも、歯医者の判断で行うことが容認されているので、注意していただきたい。
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抜歯原因の1位である歯周病でも、科学的な根拠のない独自の治療法を打ち出す歯医者がいる。たとえば、これもその一つ。
「歯茎マッサージで、歯周病菌を取り除ける」
歯茎(歯肉)をマッサージして血行を良くすると、免疫力も高まり、歯周病が治るという理屈らしい。こんなに簡単なら、なぜ広まらないのか?
歯周病治療の第一人者・弘岡秀明氏(スウェーデン・デンタルセンター院長)は、次のように解説する。
「マッサージされた歯肉は、一見すると引き締まって見えるので、健康になったと"錯覚"するのです。歯周病は感染症ですから、原因となっているバイオフィルム(細菌のかたまり)などの除去が必要です。歯肉マッサージで歯周病が治るということは、あり得ません」
歯医者が、独自の「◯◯式治療法」をアピールする理由。それは、奇をてらった主張でなければ、社会に注目されないからだ。一般的な常識とは違う治療法を考え出し、マスコミに売り込んで話題を作り、クリニックの集患(患者数を増やすこと)に利用する。
くれぐれも気をつけてほしいのは、非科学的な治療法を信じて、正しい治療を受けずに虫歯や歯周病を進行させてしまうことだ。独自の治療法を勧められたら、歯科関連学会のホームページでガイドラインを確認してもらいたい。
case.2 「この歯は抜くしかない」を信じるな
50代の男性は、前歯に鈍い痛みが出たので、近所の歯科医院をネットで探した。大学病院の勤務経験がある歯医者は、最新のCT検査を行った後、男性の目を見据えて診断を告げた。
「あなたの症状は歯根破折と言って、歯の根にヒビが入っているのが原因です。これは抜歯するしかありません。抜いた後は、インプラントがいいでしょう。私は大学病院で経験を積んでいますので。費用は1本約45万円です」
身体の一部分を失う抜歯は、患者にとっては一大事。それなのに、歯医者は何のためらいもなく、歯を抜いてインプラントにすることを勧める。その姿勢に違和感を抱き、男性はセカンドオピニオンを受けることにした。
「軽度の歯根破折なので、接着という方法で治療できますよ。まだ、歯を抜かなくても大丈夫です」
なぜ歯医者によって診断がまったく違うのか。男性は納得できなかったが、セカンドオピニオンの歯医者に治療を依頼した。結局、抜歯することもなく、費用もインプラントより、格段に安く抑えることができたという。
あまり知られていないが、「抜歯に明確な基準はない」。歯を抜くか、残せるか、担当する歯医者によって変わってしまうのが現実だ。
現在では、治療の選択肢をすべて説明するのは、医療側の責任であり、どれを選ぶか、決定権は患者にある。しかし、なぜか歯医者だけは、自分の診断が唯一の正解だとして、押し付ける傾向が強い。
仮に「抜歯しかない」と言われても鵜呑みにせず、まずセカンドオピニオンを受けたほうがいいだろう。
case.3 「手術は無事に成功しました」の嘘
レントゲン写真の丸で囲んでいるのは、上顎の骨を突き抜けてしまったインプラント。

インプラントが痺れや疼痛などの後遺症につながるケースも(『やってはいけない歯科治療』より転載)
こんな状態になっていることを、患者の女性は知らなかった。歯医者に、「手術は無事に成功しました」と聞かされていたからである。
重大なミスをしておきながら、患者には何も伝えず、隠し通す気だったらしい。しかし、手術から18年後、女性患者がたまたま別の歯科医院を受診して、ミスが発見されたという。
東京医科歯科大学・インプラント科の初診患者のうち、5人に1人は他院でのインプラント手術・トラブルだと春日井昇平教授は話す。

東京医科歯科大学の春日井教授(筆者撮影)
「インプラントが折れた、抜け落ちた。痛くて噛めない。そういうトラブルを患者が主治医に伝えても、対応してもらえないので、ウチに来るのです。一番悲惨なケースは"神経損傷"。完全に神経が切れてしまったら、今の技術で繋ぐのは難しい。痺れや疼痛などの後遺症が生涯続きます」
大学病院などを対象に実施した調査(日本顎顔面インプラント学会)では、インプラント手術の重篤なトラブルが、3年間で421件あった。
「人間が行う手術だから、間違いは起きます。しかし、手術をした歯医者が、何もフォローせず、うやむやにしたり、ごまかしている。これは許されない行為だと思う」(春日井教授)
また、関東のある歯医者は、治療中に患者のインプラントを折るミスを起こした。すぐに患者に謝罪し、後日、折れた部分の回復治療について費用を負担する旨の手紙を送っている。
しかしその後、歯医者の代理人となった弁護士から連絡を受けた患者は驚いた。もとの約束をあっけなく反故にして、「過失はなかった、回復治療の費用も負担しない」と主張を変えたのである。
患者は止むを得ず、民事訴訟を起こして、4年越しの裁判でようやく勝訴した。歯医者がその場で口約束しても、損害が補償されるとは限らない。
トラブルを避けるためには、インプラントに限らず、治療終了後に必ず画像を見せてもらいながら説明を受けることをお勧めしたい。
case.4 「予防歯科」が撒き餌になっている?
日本人の虫歯は1990年頃から急減しているのに対して、人口10万人あたりの歯医者の数は反比例するように急増した。国の将来予測が甘かった影響で、少ない患者の奪い合いが、歯医者同士で起きている。

今、新規開業する歯科医院が、判で押したように「予防歯科」を掲げているのは、生き残りをかけた「ビジネスモデル」になっている事情もある。これには"仕掛け人"が存在する。
保険診療で通院している患者に、歯医者や歯科衛生士が巧みなセールストークで「自費診療」を売り込む。
こんな手法を、一部の経営コンサルタントが勧めているのだ。
「銀歯が入っていたら、セラミックに変えたほうがいいと言い続けていく。それじゃあ、変えてみようかなというオジサマは結構いらっしゃいます。ウチでは、1回2万円のホワイトニングも男性にオススメしていますよ」
こう話すベテランの歯科衛生士は、まったく悪びれていなかった。利益率が高い自費診療を患者に勧めることは、歯科医院を維持するうえで必要なことだと割り切っているのだろう。
歯医者や歯科衛生士の「自費売り上げ」をグラフにして競い合わせたり、一定のノルマを課して、給料に反映させている歯科医院もある。これでは、一般的な会社の営業部門と変わらない。
ある歯科医院の院長は、経営コンサルタントの提案を受けて、「予防歯科」として自費の「リスク管理検査」を患者に勧めた結果、売り上げが500万円上がった、と誇らしげに語っていた。
この歯医者の関心は、患者の虫歯や歯周病を予防することより、自院の売り上げにあるらしい。
「予防歯科」自体は北欧などで実績があり、患者にとってメリットが大きいだけに、巧妙な手口とも言える。
case.5 「短期間」「手軽さ」の重い代償
歯科医療のトラブルを手がける高梨滋雄弁護士は、インプラントや矯正治療で、問題が起きるケースに共通した「傾向」があると警鐘を鳴らす。
「ワンデー◯◯のように、短期間、手軽さ、をセールストークにしている歯科医院の治療で、問題が続出しています。たとえば、インプラントの治療は3カ月から6カ月間かけて顎の骨に結合する時間が必要ですが、それを抜歯、インプラントの手術、仮歯装着まで、手術当日にやってしまう。忙しい人には魅力的に映るかもしれませんが、生理学的にも無理があるので、インプラントの脱落や、感染が起きるなど、リスクが伴う治療法です」
こうした歯科医院は、ホームページで「その日のうちに理想の歯が手に入る」などと、メリットを強調しているが、高梨弁護士が指摘しているリスクについての記述は見当たらない。
今年6月に改正された医療法では、患者の体験談を広告として使用することを禁じているが、それも堂々と掲載している。コンプライアンスに欠けた歯医者が、安全な医療を行っているのか疑問だ。
一方、矯正治療でも「その日のうちに綺麗な歯並びになる」という歯科医院が乱立するようになった。本来は、年単位でゆっくりと歯列を動かしていくのが、矯正治療の基本。それが、なぜ1日で可能なのか?
短期間の矯正の一つが、セラミックのクラウン(被せ物)を装着して、整った歯並びに見せてしまう「セラミック矯正」。
取材チームのスタッフが、全国展開しているクリニックを訪ねて、歯医者に無料のカウセリングを受けてみた。
「1回目は、歯を削って形を整え"中の神経を取って"そこに仮歯を入れます。2回目は仮歯の調整と神経の治療。3回目は土台をつけて型取り。4回目でセラミックを被せて完成です」
「その日のうちに」と謳っているのは、仮歯の状態だった。実際は4回の通院で約1カ月かかるし、歯列自体は変わらない。それに、歯の神経を抜くと確実に寿命が短くなる。
歯医者の説明が終わると、カウンセラーの女性に交代して契約を促される。
「オールセラミックの定価は15万円のところ、キャンペーンで20%オフなので12万円です。これは初めて来た患者さんだけの特典です」
「セラミック矯正」は、美容外科グループが歯科分野に参入して以降、一気に広まった。ただし、噛み合わせなどのトラブルで、満足に食事ができないケースも報告されており、健康な歯を大きく削り神経を抜く手法を疑問視する矯正専門医は多い。
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