虫歯になっても、神経は絶対に抜いてはいけない(週刊現代)


虫歯になっても、神経は絶対に抜いてはいけない

現役歯科医が実名で警告 

「何とか歯を残したい」。そんな気持ちで「削る治療」を選ぶ人は多い。しかし、一度歯を削ると、口のなかどころか、全身が蝕まれることをご存じか。

削るとより悪化する

「これまで虫歯の治療と言えば歯を削ることでした。しかし、その考え方はもう古い。安易に虫歯を削ってしまうと、むしろ症状が悪化し、歯を抜かざるを得ない状況につながることが明らかになってきているのです」

こう語るのは、小峰歯科医院理事長の小峰一雄氏。埼玉県で開業して35年以上。歯科医療のプロフェッショナルだ。

虫歯になったら患部を削り、詰め物をしてもらう。小さな虫歯であっても見つければ即座に削る。それがいままでの「常識」だった。しかし近年、歯を削ることが、むしろ口腔内に悪影響を与えるという考え方が有力になっている。

さらに、後述する通り、小峰氏によれば、虫歯は削らなくても、自然治癒によって症状を改善することができるというのだから驚きだ。

まずは、歯を削ったことで虫歯が悪化したと考えられる事例をご紹介しよう。天野歯科医院院長の天野聖志氏が語る。

「歯を削ったことによって、より状態が悪化し、私たちの病院に相談に来る患者さんはたくさんいらっしゃいます。

ある40代の女性は、以前通っていた病院で歯を削られてしまったことで余計に虫歯が進行し、神経を抜いていました。相談にきたときには、詰め物が取れ、歯には黒い空洞が空いている状態で、前の病院では『抜歯してインプラントにするしかない』と言われていた。

私たちは、歯茎に処置をする『クラウンレングスニング』という手法で何とか歯を残しましたが、最初の段階で、歯を削っていなければ、あそこまでひどい状態にはならなかったと思います。それだけ、歯を削るということはリスクが大きい治療法なのです」

歯を失うと、人は一気に老いる。口元は緩み、顎は痩せていく。80代を対象にした福岡県での調査によれば、歯がまったく残っていない人は、20本以上残っている人に比べて約2倍も死亡リスクが高いことがわかっている。

最後まで自分の歯で食べ、健康にすごしたい――それが多くの人の切なる願いだろう。

しかし、だからといって少しの違和感で病院に行き、すぐに歯を削らせてはならない。一度歯を削ってしまうと二度と元には戻らない。しかも削った部分では虫歯が何度も再発する可能性が飛躍的に高まるからだ。前出の小峰氏が解説する。

「虫歯になった部分を高速タービンなどの歯科機器で削ってしまうと、歯の表面を覆う『エナメル質』の部分に『マイクロクラック』という小さなヒビが無数に入ります。

このヒビから、エナメル質とその下にある『象牙質』の間に菌が入り込み、そこに溜まりやすくなる。それにより、歯の外側からではなく内側から虫歯になってしまうことがあるのです。

こうなると、その虫歯をさらに削って詰め物を入れても、歯の内部に菌が残ってしまい、詰め物の下で虫歯菌が繁殖してしまうことになります」

小峰氏によれば、現在の歯科医院での治療体制も、「削る治療」が、虫歯をさらに悪化させるひとつの要因となっているという。

「虫歯を削った後、患部をむき出しの状態でうがいをさせる歯科医がいます。しかし、歯科ユニットから水が出てくるチューブには、比較的綺麗とされるフッ素コートのものでも10万以上の細菌がいると言われている。

削った歯を、そのまま菌だらけの水でうがいさせるというのは、ケガをした体でドブ川を泳がせるようなものです。

私が診たなかに、かつてこんな経験をした60代の男性の患者さんがいました。子供の頃から虫歯になったことがなかったけれど、あるとき歯垢を取ってもらおうと普段とは別の歯科医院に行った。

すると、『虫歯がある。削ったほうがいい』と言われ、そのまま歯を削られたのです。しかしその後、同じ場所に何度も虫歯ができるようになり、さらにはそこから虫歯が広がっていってしまった。歯を削ったことを後悔していました」(小峰氏)

神田中央通りいけむら歯科院長の池村和歌子氏もこう語る。

「虫歯を削った跡は、銀などを詰めたうえで隙間をセメントで埋めることになります。しかし、熱いスープを飲んだり、冷たいビールを飲んだりすると、熱膨張で銀の体積は変わり、セメントが流れたり、崩れたりします。その隙間から虫歯菌が入り再発するケースが少なくありません。

歯を削るということは、その後、虫歯再発のリスクを抱え続けるのだということ、一度歯を削れば一生その十字架を背負うのだということをよく認識しなければなりません」

さらに、前出の小峰氏によれば、歯を削ったことでできたマイクロクラックによって、歯が割れたり、折れたりするリスクも高まる。

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現役歯科医が実名で警告 

「神経を抜く」は絶対NG

こうして、歯を削ったことにより虫歯が悪化したり、歯が割れたりすると、歯科医が選択肢として提示してくるのが、「神経を抜く」という処置だ。しかし、神経を抜くことになれば、状況は悪化の一途をたどることになる。前出の天野氏が解説する。

「私は、治療において『神経を抜く』ということはほとんど選択肢に入れていません。それだけ大変なことなのです。

歯のなかには、『歯髄』という組織があります。神経や血管、細胞が詰まった部分ですが、『神経を抜く』とは、この部分を器具で掻き出し、取り除いてしまうということ。

歯髄は、ミネラルなどを運ぶことで歯の健康状態を守っています。歯髄の細胞が残っていると、虫歯ができても歯の組織を変化させたり、修復したりする働きをするのです。

いわば自然治癒力がある。神経(=歯髄)を取り除いてしまうと、当然そうした働きは完全に失われ、歯は死んだ状態になってしまいます。そのため、虫歯は進行する一方になるのです」

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また、歯髄があることによって、歯に水分が供給され、歯は、弾力性があり、割れにくく、欠けにくい状態に保たれている。神経を抜くと、それも失われてしまう。

「神経を抜いてしまえば、歯に栄養が行きわたらなくなるわけですから、もはや抜歯へのカウントダウンは始まっていると言えます」(小峰氏)

そして1本歯を抜くことになると、ほかの歯にも影響が及ぶ。小峰氏が続ける。

「抜歯をすると、歯を支える『歯槽骨』という骨が、『もうここに歯はない』と認識し、崩れ始めるのです。抜いた歯の周囲の歯もグラグラになってしまう。

1本くらいならなくなっても大丈夫、と思ってはいけません。次々と歯を失っていくことになりかねない」

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治療の初っ端で歯を削ってしまったことにより虫歯が悪化、そのことで神経を抜かざるを得なくなり、さらには抜歯を選択しなければならなくなる――治療の「最初の一歩」を間違えてしまったがために、口のなかがボロボロになってしまう可能性があるのだ。

「すでに歯を削っている人も『もうダメだ』と諦めず、状況に合わせてベストを尽くすことが大切です。これ以上は歯を削らず、口のなかの環境を根本的に改善する努力をしてください」(小峰氏)

それでは、歯を削らずにどうやって治療をすればいいのだろうか。

現在は、いくつも新しい治療が開発されている。

●ドックベスト療法

前出の小峰氏が勧めるのが、この治療法である。歯の自然治癒力を生かした方法だ。

「人間の歯は、歯髄や唾液からミネラルを供給されることによって、一度虫歯になった後でも『再石灰化』が進み、治癒する傾向がある。つまり、歯には自然治癒力があるのです。

30代の男性の患者さんのケースですが、奥歯に小さな虫歯を見つけた際、削らずに様子を見たことがありました。1年後に再びその歯を調べてみると、虫歯がきれいに治っていました。

医師は、虫歯菌を死滅させ、後は歯の自然治癒力に任せればいいのです。ドックベスト療法は、銅2%、鉄1%、そして複数のミネラルが含まれた『ドックベストセメント』という薬を患部に詰めて虫歯菌を死滅させ、歯の自然治癒力を促しつつ、その働きに任せる方法です。

無理に削るよりも効果的で簡単。これまで、2000人以上がこの方法を試して治療に成功しています」

削りたがる歯科医がいる

●ヒールオゾン治療

塩素の7倍と言われるオゾンの殺菌力で虫歯菌を殺菌する方法で、初期の虫歯であれば、まったく削ることなく治療することができる。

●レーザー治療

虫歯の菌をレーザーで焼くことによって歯を治療する方法。歯周病の治療にも用いられており、歯と歯肉の間にできた「歯周ポケット」の隙間に潜む歯周病菌を焼き殺すことができる。

●シュガーコントロール

虫歯と並んで、人が歯を失う要因となるのが、歯周病である。
歯垢についた歯周病菌が、歯を取り囲む歯肉や歯槽骨を侵し、破壊する病気だ。悪化すると、歯茎が熟れたトマトのようになる「歯槽膿漏」になり、歯はグラグラに。ひどい場合には抜歯を余儀なくされる。

しかし、歯周病についても、外科的な療法を行う前に、自然治癒力によって症状を改善させることが、治療の常識となりつつある。前出の小峰氏が解説する。

「歯周病は、体質を改善することによって治療できることがわかっています。具体的には、炭水化物を控えること。歯周病は、高血糖状態によって歯肉の血管が傷つけられて発症するという側面があるからです。炭水化物を控えれば、歯につく歯垢を減らすこともできます。

やや極端な例ですが、歯周病でうちの医院を訪れた58歳の男性の患者さんは、朝食、昼食にごはんを2杯ずつ食べ、体重が120kgを超えているという方でした。そこで、炭水化物(糖質)を減らしたところ、歯周病が改善されました」

歯を削らずに済む治療法はこれだけある。ところが歯科医のなかには、自分たちの儲けのために、こうした方法をまったく紹介することなく、患者の歯を削る人々がいる。

「現在の医療保険制度では、虫歯を削れば歯科医の収入になるけれど、何もしなければ収入になりません。そのため、治療の必要のない歯でも削ってしまう歯科医はいます。

私も以前、週末だけアルバイトにいった病院で、『時給分は削ってください』と面と向かって指示されたこともあります。もちろんそんなことはしませんでしたが……」(前出・池村氏)

歯科医のカネ儲けや間違った知識のために、歯を削る→抜歯となってしまった場合、健康が害されるのは、口のなかだけにとどまらない。

二部では、その点を詳しくご紹介しよう。

「週刊現代」2017年11月25日号より