本物の起業体験が人生を加速する…品川女子 : 教育・受験・就活


本物の起業体験が人生を加速する…品川女子

2019/08/13 05:21

 品川女子学院中等部・高等部(東京都品川区)は、高1、高2を対象に、「起業体験プログラム」を通したキャリア教育を行っている。「株式会社」を設立させ、登記から株主総会、解散まで一連の体験をさせる点に特徴がある。企業理念と社会課題の解決をリンクさせたこのプログラムの体験が、生徒の将来に大きな影響を与えることもあるという。6月12日に行われた、出資を募るためのプレゼンテーションを取材し、生徒や卒業生らの話を聞いた。

文部科学大臣も注目する起業体験プログラム

起業体験プログラムで投資を募るプレゼンテーションを行う生徒たち

 この「起業体験プログラム」は、同校オリジナルのキャリア教育「28プロジェクト」の一環として高1生と高2生を対象に14年前から行われている。「28プロジェクト」は、仕事でキャリアを積みながらも、結婚や出産に向き合う年齢である28歳の時に、どんな自分になりたいかを思い描き、その実現のために進路やキャリアを考えようというキャリア教育だ。

 「起業体験プログラム」では、生徒たちの手で「株式会社」を設立し、登記し、文化祭に「店」を出し、収益を上げるなどの一連の経済活動を体験する。プログラムを統括する権藤英信教諭は、このプログラムについて、「実際に会社を起こすことによって実践的経験が積めるので、これからの時代を生きる女性のキャリア教育に大きな効果がある」と語る。

 高1でプログラムに取り組むにあたって、まずは中3で企業とコラボレーションする総合学習を行う。これまでにも伊藤ハムとお弁当のおかずを開発したり、キユーピーと中高生の朝食を促進するジャムを企画したりするなど、第一線で活躍する社会人と共にさまざまな経済活動を経験してきた。

 中学での学習を通して培った発想力や課題解決思考を基に、高1、高2でより実践的に会社経営を体験するのが「起業体験プログラム」だ。

視察に訪れ柴山昌彦文科大臣

 3月に、どんな企業を作りたいのか新高1、高2生が個人企画書を作成することからスタートし、4月には、社長やほかの役員、企業理念を話し合って決め、クラスごとに「株式会社」を設立する。企業理念や事業内容、販売見積もり、原材料費などを細かく記載した事業計画書、投資家向けのIRリポートなどを作成し、7、8月には校内で「設立登記」を行う。9月の文化祭「白ばら祭」で、高1、2の計10クラスがそれぞれ1店を出し、最終的には決算、監査報告、株主総会、会社の解散まで一連の流れを体験する。

 取材に訪れた6月12日は、出資を募るためのプレゼンテーションが行われていた。高1・高2の生徒、保護者、プレゼンテーションを審査する審査員のほか、柴山昌彦・文部科学大臣らも視察に訪れ、大勢の大人たちの目が集まる中、生徒たちは堂々と発表を行った。

専門家の審査員を前にプレゼンテーション

 5年(高2)D組が設立した「株式会社〇〇(まるまる)」は、文化祭の来場者に有料でiPadを貸し出し、ゲームに答えながらアトラクションを体験してもらうビジネスを考えた。ゲームの中には間違った情報も含まれ、自分のメディアリテラシーが測れるという。ゲーム制作も自分たちで行う。監修は脱出ゲームなどを制作している会社に依頼した。

 「社長」の細谷星瑠さん、「マネージャー」の興津和佳さん・田中爽乃さんの3人は、檀上で投資家へ向けてこうアピールした。「みなさんは、日頃からSNSを使用し、テレビや新聞から多くの情報を得て生活していることでしょう。しかし、それらの情報は本当に正しいものでしょうか。すべての情報をうのみにしてしまうと、自分が傷ついたり、逆に他の人を傷つけたりといった事態になりかねません。そこで重要なのがメディアリテラシーです」

 過去4回、このプログラムを指導した佐藤吉武教諭は、「私が初めて関わった8年前は、売り上げを優先して企画を考える傾向も見られましたが、近年は企業理念と社会課題の解決を関連させてとらえ、品川女子の生徒として自分たちに何ができるかを考えた企画を出すようになりました。内容が進化しています」と話す。先ほどのクラスが、iPadを用いた体験型アトラクションを企画したのも「正しい情報を判断したうえで、自分の言動に責任を持ち、能動的により良い社会をつくっていく」という企業理念を達成するためだ。

 自分たちが制作した動画も映し出しながら行われたライブ感たっぷりのプレゼンテーションが終わると、13人の審査員から厳しい質問が飛んだ。「顧客の年齢によるゲームのレベル調整は考えているか」「部屋を六つに分けているが、6グループが同時に入れるオペレーションができているのか」

ICTを駆使して事業を進めていく

 審査員たちは公認会計士や税理士、経営コンサルタント、商社のマーケティング責任者や銀行の企業再生担当など。いずれも生徒の保護者や、監査法人の協力で参加してもらった専門家たちであり、質問を通して生徒たちを厳しく指導していた。

 このほかにも、「使い捨ての傘を1本でもなくそう」と、携帯用の傘と専用袋の販売、傘のリサイクルなどを行う企画、防災用非常食をストックしながら日常的に消費して買い足す「ローリングストック」を理念に掲げ、非常食の実食と販売を行う企画、児童虐待防止のオレンジリボン運動の周知と、親子のスキンシップを推進するハンドクリームの販売を行う企画などがあった。

 審査員からは、「社会課題を解決する理念が素晴らしい」「さまざまなデータを駆使していて説得力がある」「販売計画が戦略的で驚いた」などの声が上がった。柴山文科相も、「これだけのアイデアを出し、アイデアをサポートするさまざまな調査をして、プレゼンテーションし、審査員の質問にも的確に答えられる。これができる学校はなかなかない」と感嘆の様子だった。

 メディアリテラシーの体験型アトラクションを企画した5年D組の取締役メンバーに、起業体験プログラムに対する考えを聞くと、3人ともこのプログラムを通してビジネスに対する考えが変わったという。

 「人をまとめることの大変さと楽しさを経験できています。社長をやってよかった」と細谷さんは話す。田中さんは「ビジネスに興味はなかったが、会社を運営するのは面白いと思うようになった」、興津さんは「誰かを楽しませる職業に就きたいと考えるようになった」とそれぞれ語った。

 起業体験プログラムは、生徒の興味やこれからの進路の考え方に大きく影響を与えるようだ。

起業体験プログラムで人生が変わる

NPO法人「Whiteeeeth」代表で卒業生の水野さん

 卒業生で慶応大学1年の水野薫さんも、「起業体験プログラムで、私の人生が変わりました」と話す一人だ。

 高1のとき、水野さんのクラスは起業体験プログラムで、歯周病の怖さと予防の大切さを知ってもらおうと、「株式会社 Whiteeeeth」を設立した。水野さんは社長として起業をリードし、文化祭当日は、来場者に歯周病菌を顕微鏡で見せたり、デンタルフロスの使い方の指導や販売を行ったりした。

 当日の販売は大成功だったが、水野さんは「文化祭だけでは足りない。より多くの人に知ってもらい、日本を予防歯科の先進国にしたい」と目標を立て、文化祭後にクラス全員でNPO法人「Whiteeeeth」(登記場所:同校)を設立したという。

 その後、東京都品川歯科医師会、保険会社などから協力を得て、学校などでイベントを行ったり、小学校に啓発活動に行ったり、オリジナルCMの制作も行った。その活動ぶりは国内外のメディアからも取材を受けるほど注目を集めた。CMは各地の歯科医院で放映され、歯科衛生士専門学校の授業でも扱われたそうだ。

 このプログラムを経験した卒業生の中には、20代、早ければ大学在学中に起業する人もいるという。積極的に社会と関わろうとする意思の芽生えが、生徒たちの人生を加速するのだろう。

 (文・写真:小山美香)

 品川女子学院中等部・高等部について、さらに詳しく知りたい方はこちら

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