口腔がん手術直後に男性死亡 警視庁が捜査、日大歯学部付属歯科医院
口腔がん手術直後に男性死亡 警視庁が捜査、日大歯学部付属歯科医院
昨年9月、日大歯学部付属歯科病院(東京都千代田区)で口腔がんの手術を受けた都内の70代の男性の容体が手術直後に急変し、死亡していたことが15日、関係者への取材で分かった。手術やその後の処置に何らかの問題があった可能性があり、警視庁神田署が男性が死亡した詳しい経緯を調べている。
関係者によると、男性は口腔がんの一種である「舌がん」と診断され、昨年9月25日に同病院で首のリンパ節に転移したがんの切除手術を受けたが、数時間後に容体が急変。搬送先の別の病院で死亡が確認された。術後の出血により、出血性ショックや窒息などで死亡した可能性がある。医師法に基づく「異状死」として神田署に届け出があり、同署が男性の遺体を解剖するなどして詳しい死因を調べている。
遺族側の代理人弁護士によると、病院側は手術前、「出血も少なく、輸血を必要とするような手術ではない」などと説明、死亡の可能性についても言及はなかったという。病院は院内に外部の有識者を含む検証委員会を立ち上げたが、医療事故調査制度に基づく第三者機関への発生報告は行っていなかった。同院は「患者が死亡したことは重く受け止めている。再発防止に努めたい」としている。
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国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」によると、口腔・咽頭がんの罹患数は年々増加傾向にあり、平成25年の全国推計値は1万9千例にのぼる。がん部位の切除手術が代表的な治療法の一つで、口腔外科を専門とする歯科医師による診療が一般的だ。首のリンパ節など、口腔外への転移が認められる場合の手術もその延長で、捜査関係者は「歯科医師が手術を行うこと自体に問題はない」としている。
一方で、気道や神経、血管などが集中する頭頸部の手術や術後管理には、患者の死亡リスクも伴う。術後の急変など、医療行為による「予期せぬ死」をめぐっては、27年10月に施行された医療事故調査制度で、厚生労働省が指定する第三者機関「日本医療安全調査機構」への届け出が義務づけられている。個人の責任追及ではなく、事故症例を共有し、再発防止策を検証するのが目的。ただ、死亡を「予期」できたかどうかの判断は医療機関に委ねられ、施設ごとに報告にばらつきがあるのが現状だ。
歯科医院における「予期せぬ死」も対象だが、ある歯科業界関係者は「歯科医院では死亡事故になじみが薄く、制度そのものを知らない経営者もいる」と打ち明ける。機構によると、制度が施行された27年10月~28年12月までに報告のあった医療事故487件のうち歯科・口腔外科は5件となっている。
歯科医師で弁護士の元橋一郎氏は「命に関わる医療行為を行う以上、手術や術後の態勢、不利益事項の告知など、死亡リスクに対して医科並みの態勢を整えることも必要」としている。