【衝撃事件の核心】「トンデモ歯科医だ」義歯のセラミックも虫歯の数も嘘だった!? 怒りの提訴に司法判断は
【衝撃事件の核心】「トンデモ歯科医だ」義歯のセラミックも虫歯の数も嘘だった!? 怒りの提訴に司法判断は

治療に通った歯科医にすすめられ、オールセラミックにしたはずの義歯の材質は説明と全く違っていた。虫歯の数の大幅水増しまで判明し、500万円以上を治療に費やした男性は歯科医を相手取って損害賠償請求訴訟に打って出たが…
「芸能人は歯が命」。こんなキャッチコピーの歯磨き粉のCMが流行したのは、もう20年以上も昔のことだ。時は流れ、今や芸能人でなくともホワイトニングや人工歯のインプラントなど歯の美しさにこだわることが一般的になった。その男性の場合、審美歯科治療にかけたお金は、実に500万円以上に及んだ。ところが後日、高額な義歯の材質が、歯科医の説明とは違っていたのではないかという、まさかの疑惑が持ち上がった。「20本以上ある」と言われて抜歯した虫歯の数も、大幅な水増しだった可能性が浮上した。男性は「トンデモ歯科医だ」と損害賠償を求めて訴訟に打って出た。驚愕の“歯科偽装"の実態は-。
「オールセラミックに」
滋賀県在住の50代、黒岩健さん=仮名=は以下のように訴えた。
平成23年の秋、かねて口の開閉に違和感を覚えていた黒岩さんは、知人の市川祥子さん=同=が助手として働いていた歯科診療所を訪ねることにした。
担当したのは70代の女性歯科医A。違和感の原因は歯茎部分に生じたおできのような腫瘍だった。A医師は患部にメスを入れ、除去する施術を行った。
その際、黒岩さんは「口が開けにくいんです。口を動かすと顎がカクカクする」とA医師に相談した。すると、歯並びをよくすれば改善するとアドバイスされ、さらに「あなたには虫歯が24本もある。歯が弱いので、オールセラミックにした方がいい」との診断を受けた。
オールセラミックとは、かぶせ物や義歯の素材が全てセラミック(陶器)でできているもののこと。「金属アレルギーの心配もなく、色調も天然歯により近いため、審美的に最も優れている」。A医師はそう太鼓判を押した。
治療に通った歯科医にすすめられ、オールセラミックにしたはずの義歯の材質は説明と全く違っていた。虫歯の数の大幅水増しまで判明し、500万円以上を治療に費やした男性は歯科医を相手取って損害賠償請求訴訟に打って出たが…
保険診療の対象外になるため、費用は義歯1本あたり8万~15万円とかなりの高額だったが、黒岩さんは決意した。請求総額は518万8千円に上った。
カルテに「混合物」
支払いは複数回に及び、領収書には「補綴物(ほてつぶつ)(※かぶせ物)代金」「病理検査代」などと書かれていた。A医師からは口頭で「歯の状態があまりに悪いので、特殊な作り方をしなければならない。前に受け取った額では足りない」と追加料金を求められたり、「(症状について)東京の教授にみてもらった」と20万円の交通費を請求されたりもしたという。
なにか怪しい-。このころには黒岩さんは、A医師からの漠然とした料金請求に不信感を抱くようになっていた。
助手だった市川さんも黒岩さんと同じように、A医師に対する疑念を深めていた。そこで黒岩さんのカルテや歯科技工関係書類の開示を求めたが、A医師は口では見せるとは言うものの一向にその気配がない。
ある日のこと、市川さんはA医師の目を盗んで、黒岩さんのカルテを見た。そこで驚くべき事実を知る。
まず診療の日付や内容が一切記載されていなかったのだ。さらにオールセラミックのはずの義歯の材質が、セラミックとレジン(プラスチック)の混合物としてより安価な「ハイブリッド」と記入されていた。
市川さんはA医師を問いただしたが、「黒岩さんに入れた義歯はオールセラミックだ」と言い張るだけで、らちが明かない。
そのことを聞いた黒岩さんはセカンドオピニオンを得るべく、25年10月に別の歯科医院で義歯を見てもらった。結果は「オールセラミックではありません」。
黒岩さんは訴訟を起こすことに決めた。
治療に通った歯科医にすすめられ、オールセラミックにしたはずの義歯の材質は説明と全く違っていた。虫歯の数の大幅水増しまで判明し、500万円以上を治療に費やした男性は歯科医を相手取って損害賠償請求訴訟に打って出たが…
注目の1審判決は…
訴訟に先立ち、黒岩さんは裁判所に証拠保全の申し立てを行い、認められた。しかし検証の期日に、A医師は「黒岩さんのカルテは倉庫に保管してあり、ここにはない」として、カルテを出すことはなかった。
だが、この説明も疑わしいものだった。市川さんの知る限り、A医師はカルテ用の倉庫など持っていないはずなのだ。
そうこうするうち、A医師は26年春になって、「病気のため休診」という張り紙一つを掲げ、関東方面へ移転してしまった。
昨年6月の1審大津地裁彦根支部判決は、黒岩さんの主張を全面的に認め、請求通り570万6千円の支払いをA医師に命じた。
訴訟でA医師側は、黒岩さんに装着した義歯はオールセラミックだと改めて反論。黒岩さんの口腔(こうくう)内の状態に沿った治療をしたと主張していた。
しかし判決は「義歯がオールセラミックだったと裏付ける証拠はない」と否定したうえ、黒岩さんに装着された義歯には金属が含まれていたと指摘。原価は1本あたり9600~9800円だったと認定した。
訴訟では結局、黒岩さんのカルテや口腔内を記録した画像などはA医師側からは一切提出されなかった。このため領収書の名目にもなっていた病理検査についても、行われた証拠がないと判断した。そしてA医師について「黒岩さんをだまし、材料代や治療費の名目などで金をだまし取ったと評価できる」と非難した。
裁判所「醜悪な行為」と指弾
A医師側は控訴した。しかし、今年5月の2審大阪高裁判決も1審を支持、A医師の控訴を棄却した。