歯科治療、進まぬ院内感染対策 「患者ごとに器具交換・滅菌」まだ半数:朝日新聞デジタル


2019年10月9日05時00分
 器具で歯を削るなどして血液や唾液(だえき)が飛び散る歯科治療には、感染症への対策が欠かせない。もし病原体を含む体液がついた器具を使い回せば、感染リスクが高まるからだ。だが、患者ごとに治療器具を取り換える歯科医は、半数にとどまるという最近の調査データもある。なぜ、対策は進まないのか。
 ■設備・意識に温度差
 JR新大阪駅前の高層ビルの一室にある「新大阪ミナミ歯科クリニック」。昨年11月に開業し、1日に40~50人の患者を受け入れる。治療に使うミラーやピンセット、歯を削る機械式のハンドピースなどは患者ごとに取り換え、専用の機器で滅菌処理している。
 5台の診察台は間を仕切り、医師や歯科衛生士らは手袋を着用。午前と午後の1回ずつ、約2時間かけて治療器具を洗浄し、専用の高圧蒸気で滅菌する機器(オートクレーブ)にかけて処理し、袋で密封している。
 洗浄と滅菌の機器をそろえるには約400万円かかった。南清和総院長は「滅菌処理は設備投資や人件費がかかり、作業も煩雑だが、そろえるのが当たり前の時代になった」と話す。
 歯科治療では日常的に細菌やウイルスを含む可能性がある血液や唾液が飛び散るため、感染症対策が欠かせない。
 だが、厚生労働省研究班が2016年度に全国の歯科医700人を調べたアンケートでは、患者ごとに交換する必要のある使用済みハンドピースを「患者ごとに交換、滅菌している」と答えたのは52%だけだった。「感染症患者とわかった場合に交換、滅菌」は17%、「状況に応じ交換、滅菌」が16%、「消毒薬でふきとる」は14%だった。
 また、診療時の手袋の使用についても「全症例に使用、患者ごとに交換」は52%にとどまっていた。「患者ごとに交換していない」「症例に応じ使用」といった、感染症対策には望ましくない回答も計47%に上った。「使用しない」も1%あった。
 厚労省は対策を進めるため、昨年度の診療報酬改定で、国の施設基準を満たしていると届け出ない歯科は、初診料と再診料を減点することを決めた。患者ごとに器具の洗浄・滅菌をしたり、感染防止対策の研修を4年に1回以上受けたりすることなどが基準だ。
 厚労省によると、治療器具の滅菌器をそろえるなどして国の施設基準を満たした、と届け出た施設は全国の9割以上あるが、届け出た施設をすべてチェックできているわけではない。
 全国に7万カ所近くある歯科の中には、滅菌などの機器を十分にそろえられていないまま、診療を続けているところもある。横浜市内の30代の男性歯科医は「患者の多い規模の大きな歯科は専用機器をそろえる資金があるが、そうでないところもある。昔の慣習のまま使い回すところもあり、感染症対策に温度差がある」と話す。
 ■評価機関の情報、選ぶ参考に
 海外では、歯科医の治療器具の使い回しで、深刻な院内感染が起きた。米メディアによると、2013年にオクラホマ州の歯科で治療を受けた患者が、エイズウイルス(HIV)C型肝炎ウイルスに感染した。使い回しが判明し、同じ歯科の患者を調べたところ、少なくとも約60人からHIVやB型、C型肝炎ウイルスへの感染が確認された。
 海外の医療に詳しい大阪市の総合診療医、谷口恭さんは「日本で同じことが起きても、歯科の名前公表や検査がなされるか疑問だ。日本で院内感染は起きていないのではなく、わかっていないのが現状ではないか」と話す。
 では、きちんと感染症対策をしている歯科医を、患者はどう見分けたらよいのか。目安になる情報のひとつを、歯科の第三者評価機関であるNPO法人歯科医療情報推進機構(東京都)が出している。
 歯科医や職員らが実際に訪問して審査し、評価項目を満たした歯科を認定。評価項目は、ハンドピースを患者ごとに滅菌、交換しているかなど感染症対策のほか、医療事故への対応や患者への説明方法などだ。
 同法人のホームページ()で、同法人が認定した医療機関を、国の各施設基準を満たした医療機関とあわせて公表している。(小川裕介)
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