歯科のAI診断支援システム、阪大とNECが挑む
歯科のAI診断支援システム、阪大とNECが挑む
「ソーシャル・スマートデンタルホスピタル」が始動
「ソーシャル・スマートデンタルホスピタル(S2DH)」。そんな構想が始動する。大阪大学 歯学部附属病院と大阪大学 サイバーメディアセンター、NECは2018年2月20日に記者会見を開催し、構想の内容を発表した。
S2DHは、大阪大学で開発したAI技術とNECが構築するクラウドサービス基盤を活用して、歯科診療情報を有効活用するためのプロジェクトである。大阪大学 歯学部附属病院には、日々2000人の患者が訪れ、膨大な歯科診療情報が蓄積されている。この情報を「適切に活用したいと考えたことからS2DHが始まった」と大阪大学 歯学部附属病院 病院長の村上伸也氏は話す。
歯科診療情報の活用として、まずはAIを活用した診断支援システムの開発を試みる。既に医学系では、AIを活用した診断支援システムの研究が盛んに行われているが、歯科領域においてこれほど大規模な研究は国内初だという。
成果は阪大を“ハブ"に地域・海外へ展開
S2DH構想の実現性を確かめるために、大阪大学 歯学部附属病院では先行して2017年4月から3つの診断支援システムに関する研究を進めている。それぞれ、(1)矯正歯科、(2)舌粘膜病変、(3)歯の喪失、に関するシステムである。
(1)の矯正歯科は、口腔内や顔貌の情報を使ってAIで検査や診断、治療方針の支援を行うシステムである。これまでは専門医がアナログで行っていた工程をAIで支援することで、「医師にしかできない外科的な治療を行うことに一層注力できる」(村上氏)ことを狙う。
(2)の舌粘膜病変は、検査画像と確定診断の結果をAIに学習させることで粘膜組織病変の良悪性を判定する診断支援システムだ。がんや前がん病変、口内炎などを自動的にスクリーニングすることで見落としを防止する。現時点で病変の検知は高精度に行うことができており、今後は「グレーな症例をいかに正確に判断できるようにするか研究を進めていきたい」と村上氏は話す。
(3)の歯の喪失に関しては、長く来院している患者の口腔内データを使って、今後何年以内にどの歯を失う可能性があるか予測するシミュレーターを開発している。数千人の口腔内歯列情報を学習させており、歯を失いやすい患者を早期に判定することを狙う。
これらの研究は、数年以内の実用化を目指している。2018年度以降も院内で新たなテーマを設定し、研究を進めていきたい考えである。さらに、これらの成果は大阪大学 歯学部附属病院を“ハブ"として、地域の医療機関や海外へ展開することも視野に入れており、地域の医師も巻き込んで裾野を広げていきたい考えだ。
「ソーシャル・スマートデンタルホスピタル」が始動
セキュリティーへの配慮は?
S2DHでは、情報を安全に取り扱うことにも気を配っている。今回取り扱う歯科診療情報は、顔の一部やその周辺を含む検査が行われるため「個人が特定される可能性が高い」(NEC システムプラットフォーム研究所長の中村祐一氏)からだ。顔貌画像はそれだけで個人が特定される可能性があり、歯型は身元確認などにも使われ、カルテ情報と合わせれば簡単に個人を特定することができる。
そこで今回は、ネットワーク経路やハードウエアデバイス、メモリーデータ、システム占有時間などを安全に分割する仕組みを整備し、それらを統合管理するソフトウエアを開発する。これによってデータの秘匿度に応じてセキュリティーレベルを設定し、医療データを迅速に処理することが可能になるという。





