ワクチン注射の職種拡大 政府、歯科医など検討: 日本経済新聞
ワクチン注射の職種拡大 政府、歯科医など検討
接種推進に向けて
政府は新型コロナウイルスワクチンの接種で注射を打てる職種の拡大を検討する。医師と看護師に限定する現行法の規制を緩和し、歯科医師などが接種を担えるようにする。医学生らを活用する海外の取り組みを参考に接種拡大をめざす。
新型コロナのワクチンは12日から3600万人の高齢者向け接種が始まる。続いて基礎疾患がある人、一般の人へも接種するため必要な人員が急激に増える。政府はその前に職種拡大が可能かを探る。
ワクチンなどの予防接種は医療行為にあたり、医師法の規定に基づいて注射を打てるのは医師に限定される。看護師は保健師助産師看護師法にある医師の指示で診療を補助できるとの規定を根拠として注射可能だ。歯科医師や薬剤師、救急救命士など他の職種は認められていない。
政府が検討する規制緩和対象として浮上するのは歯科医師だ。歯科医師法は歯科医師の業務を「歯科医業」と規定する。口の中の麻酔は可能でも、腕へのワクチン注射は含まないと解釈される。厚生労働省には解釈変更の通知を出せば筋肉注射を打てるようにできるとの見方がある。
通常は違法とされる行為でも、法学者や公衆衛生の学者を集めた会議で違法性が否定される特殊事情があると判断されれば、厚労省は解釈変更の通知を出せる。昨年4月、感染の有無を調べるPCR検査の検体採取を歯科医師に認める際、この手法を使った。
菅義偉首相は1日のテレビ東京の番組で注射を打つ職種の拡大について「接種の状況をみながらいろんなことを考える必要がある」と述べた。「今回は緊急の状況だ。PCR検査は医師がいないとき歯科医師会にもお願いしてきた」と言及した。
薬剤師や救急救命士を活用する案もある。救急救命士法は業務を救急救命処置と定めており、ワクチン注射は対象になっていない。過去に厚労省の省令改正と通知によって血糖値が下がった人へのブドウ糖注射を業務に追加したことはある。薬剤師法は医療行為に関する規定がないため法改正が必要との見解が多い。
接種を担う自治体には現役の医師と看護師だけでは接種人員が不足するとの懸念がある。日本の医療機関の8割以上は民間病院で、政府や自治体がワクチン注射に動員する法的権限がない。規模の小さい施設は人手をやりくりする余裕も少ない。
日本医師会の中川俊男会長は3月31日の記者会見で「全国の医師会や医療機関は接種体制の構築に全力で取り組んでいる」と協力姿勢を訴えたものの、実際にワクチン注射をどれだけの人が引き受けるかは見通せない部分がある。厚労省によると1月10日時点で中規模の民間病院の4割はコロナ患者に対応していなかった。
厚労白書によると2018年度末時点で医師は31万人、看護師は准看護師を含めて156万人いる。歯科医師は10万人、薬剤師は24万人だ。救急救命士は全国救急救命士教育施設協議会の統計で6万人いる。職種規制の緩和は注射要員の確保に一定の効果が見込める。
米国の一部の州や英国では歯科医師や薬剤師、救急救命士にワクチン接種を認める。米英が日本に比べて接種スピードが速い一因だ。政府は関係団体の意見を聞いて安全性を検証しながら、職種拡大の調整を進める。