新型コロナ: エア出ない歯科器具で英開拓 ナカニシ、飛沫防止に商機: 日本経済新聞
エア出ない歯科器具で英開拓 ナカニシ、飛沫防止に商機
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歯科治療器具製造のナカニシが新型コロナウイルスによる逆風をチャンスに変えている。施術中に歯を削る器具から吹き出す空気は患者の飛沫を拡散させるが、ナカニシは独自の特許技術で吹き出しを止める器具を開発。これを機に英国ではこれまで製品の納入実績がなかった歯科系の医科大学の4分の3を新たに開拓した。
きっかけは2020年5月中旬、中西英一社長に届いた英現地法人の社長からの報告だった。「エアの出ない器具が必要だ」という英国からの声を、中西社長はすぐに開発担当者に伝えた。
治療で歯を削る器具の先端部分を回転させる方法には2つある。一つはモーターの回転を伝えるモーター式。もう一つは送り込んだ空気が器具の中に取り付けた極小の「風車」を回すことで先端部分を回転させるエアタービン式だ。エアタービン式は回転のための空気を先端から逃がすため、モーター式に比べてより多くの空気が放出される。
新型コロナでは飛沫が非常に細かい粒子になって空気中を漂うエアロゾルも感染経路になるとされる。歯科治療では器具から出る空気によってエアロゾルが拡散するため、医療者や患者の安全性が危惧されていた。中西社長によると英国や欧州、中国ではエアタービン式の器具を使用できなくなったといい、医療機器メーカーにとっても大きな逆風となった。
モーター式も先端から水と同時に空気を出す。ナカニシは英現地法人からの報告を受け、歯科医が手元で空気を止められる機構をつけたモーター式の器具を急きょ開発。もともと親知らずを抜歯するときの専用器具に同様の機能をつけており、その技術を応用したため数週間後の5月末には試作品を完成させた。
空気や水を先端から出すのには理由がある。歯の神経はセ氏40度程度になると死んでしまう。そのため歯を削る際に発生する熱を空気や水で常に冷やし続ける必要がある。改良品は水の噴射だけでも神経の温度がそれほど上がらないことも実験で示し、安全性も確認できた。
このコロナで生まれた新しいニーズを捉えた今回の開発は思わぬ余波を生む。英国には20の歯科大学があるが、ナカニシはこれまで全く製品を扱ってもらうことができなかった。しかし、今回の製品が認められ、一気に15大学と契約が進んだ。「ずっと積極的に営業してきたが、大学病院は従来取引しているメーカーの牙城を崩せなかった」(中西社長)という。
同製品が医療者の安全につながることは12月に英国の学会誌でも取り上げられた。中西社長は「大学病院で歯科医の卵がナカニシの製品を使えば、独立した後にも自社の製品を採用してくれる。シェア拡大に大きな弾みがつく」と期待する。
(宇都宮支局 桜井豪)