ストーリー:治療23年、歯科医の信念(その1) エイズ、恐れに負けず - 毎日新聞
治療23年、歯科医の信念(その1) エイズ、恐れに負けず
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「1994年に初めてエイズの患者さんを診ました。虫歯の治療ならできるだろうと、一歩踏み出したんです……」
1日夜、静岡県沼津市。地元の歯科医師ら約130人を前に、スーツ姿の鈴木治仁(はるひと)さん(60)が柔らかな口調で語り始めた。
沼津市では7月、患者がヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染していることを知った歯科医が治療を中断し、HIV治療の中核拠点病院である市立病院へ転院を促す出来事があった。だが、HIVは通常の歯科治療ができない感染症ではない。市歯科医師会は、会員たちにHIVへの理解を深めてもらおうと鈴木さんを講演者に招いたのだ。
鈴木さんは93年に東京都品川区で「鈴木歯科クリニック」を開業。まだエイズが「死の病」とされ、2次感染を恐れた医療機関で診療拒否が相次いでいたころ、エイズ患者を受け入れた数少ない歯科医の一人である。
「最初の患者さんの血液を見た時、どれだけウイルスがいるのかなって思ったけれど、恐れに負けずに治療をしました」。講演でそうも語った鈴木さん。多くの人が尻込みする中、なぜ恐れに負けなかったのだろうか。世界保健機関(WHO)がエイズの正しい知識の啓発などを目的に制定した「世界エイズデー」(12月1日)を前に、23年以上にわたりエイズと向き合ってきた歯科医の原点と信念に迫った。 <取材・文 金秀蓮>