銀歯値上がりの背景に「脱炭素」 原料5年で6倍超に(NIKKEI STYLE) - Yahoo!ニュース


銀歯値上がりの背景に「脱炭素」 原料5年で6倍超に

7/4(日) 19:30配信
歯の治療に使う銀歯の価格が上がっています。歯科医が仕入れる銀歯の実勢価格を調べると、2019年9月は1グラム2000円を切っていたのに対し、今年4月上旬時点の価格は3200円前後まで上がっています。じつに1.6倍になりました。原材料のある貴金属が高騰しているためなんです。その貴金属とは「銀」でしょうか。いいえ違います。銀歯はその名前から銀のイメージが強いですが、実は「金銀パラジウム合金」、通称「金パラ」という合金から作られているんです。成分は銀がほぼ半分、さらに日本産業規格(JIS)規格で金12%、パラジウムが19%などと定められています。このうちパラジウムの価格が高騰しているのが大きいのです。

■国際価格は5倍以上に

1/2

ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)に上場するパラジウム先物価格は現在、1トロイオンス2800ドル前後。この5年で5倍以上になっています。2015年からの相対チャートで、同じ貴金属である金や銀と比べてみるとパラジウムの突出した値上がりがよくわかると思います。 値上がりの背景にあるのが「脱炭素」。特に自動車の排出ガス規制です。地球温暖化や気候変動を食い止めるため、世界で排ガス規制が強化されています。この規制をクリアするために欠かせないのが「排ガス浄化装置」です。この装置内の「触媒コンバーター」という部品にパラジウムが使われています。同じ貴金属のプラチナも浄化装置に使いますが、こちらはディーゼル車向け。ガソリン車にはパラジウムが使われます。ここ数年、中国がガソリン車の排ガス規制を強めており、パラジウムの価格上昇に拍車がかかっています。 ■保険適用で治療費上がらず 銀歯の仕入れ値が上がっていますが、治療費は上がっていません。銀歯は健康保険が適用され政府が決めた公定価格で取引されています。公定価格は4月時点で1グラム2668円。一方で、歯科医の仕入れの実勢価格は3200円前後です。歯科医院が銀歯の材料費として回収できるのは公定価格として定められた額のみ。差額の分が赤字となるということです。逆ザヤになっており、銀歯で治療すればするほど歯科医院の赤字は増えてしまいます。 銀歯の公定価格は基本的に2年に1回の診療報酬改定に合わせて決まる仕組みです。急激な原材料価格の変動があった場合に見直すルールはありますが、今年4月の中央社会保険医療協議会では10月までの公定価格据え置きが決まりました。価格の算定期間における貴金属の変動幅が見直しの基準となる15%に達していないとみなされたためです。今後、パラジウム相場がさらに高騰して逆ざやが広がっても公定価格は10月まで変わりません。

■コロナ収束で一段高も



パラジウム価格は今後一段の上昇を予想する声もあります。米シティはパラジウム価格は3200ドルまで上昇する可能性があると予想しています。少なくとも2021年と22年は需給が引き締まった状態が継続し、相場を支えるとの見方をしています。コロナ禍

の収束で経済活動が正常に戻り、自動車の販売台数も上向くというのが理由です。

銀歯に代わる素材としては「コンポジットレジン」といわれる、白いプラスチック素材も使います。色が歯に似ているので見た目が良いと人気になっています。ただ、貴金属に比べると強度が強くないので、かみ合わせが強い場合欠けたり、割れたりすることがあります。時間が経つと変色するなどの欠点もあり、まだまだ銀歯の需要はあるんです。

このままパラジウムの上昇が続けば、10月に公定価格が上がる見通しです。そうなると歯科治療費が上がり、患者さんに影響が出る可能性も考えられます。素材価格高騰による痛い支出を少なくするためには、歯磨きをしっかりやるしかありませんね。

(BSテレ東日経モーニングプラスFTコメンテーター 村野孝直)

値段の方程式BSテレ東の朝の情報番組「日経モーニングプラスFT」(月曜から金曜の午前7時5分から)内の特集「値段の方程式」のコーナーで取り上げたテーマに加筆しました。
1/2ページ
最終更新:7/4(日) 19:30