HIV感染者に転院促す、静岡の歯科診療所:朝日新聞デジタル


HIV感染者に転院促す、静岡の歯科診療所

高橋淳

2017年7月29日07時34分

 静岡県沼津市内の歯科診療所が、エイズウイルス(HIV)感染者に対し、虫歯の治療の途中で転院を促していたことが28日、わかった。沼津市歯科医師会によると、歯科医が感染を知ったことが理由だったといい、同会は「対応が不適切だった」と話している。

 市歯科医師会やこの患者によると、患者は6月上旬、歯石除去のためこの診療所を初めて利用。虫歯が見つかったため治療を始めることになり、同月下旬に通院した際、病名を記した「特定疾病療養受療証」を窓口に提出し、HIVの治療に通っている病院と主治医の名前を歯科医に伝えたという。受療証には「抗ウイルス剤を投与している後天性免疫不全症候群」などと記載されている。

 すると診療所の歯科医は7月中旬、電話で患者に転院を求めたという。市歯科医師会が事情を聴いたところ、歯科医は患者の主治医から「感染のリスクはほとんどない」と確認していたことを認めた上で「大量出血があった場合に十分な対応ができない」「初診時の問診票に既往歴の記載がなく、途中で感染の事実を知った」などと転院を求めた理由を説明した。

 ログイン前の続きこれに対し患者は「自分は(出血が止まりにくい)血友病患者ではない。ごく普通の生活をしており、誤解があるのではないか」と疑問を投げかける。問診票には抗HIV薬を服用中であることも記載されていたという。

 患者は虫歯の治療の途中で、転院を求められたのは歯に「かぶせもの」を装着する直前の段階だった。患者の苦情を受けて市歯科医師会は、歯科医から経緯を確認するとともに患者に説明。「歯科医には反省を促した」としている。

 歯科医向けに発行される「HIV感染者の歯科治療ガイドブック」(2016年)は、HIV感染症について、新たな薬による治療で予後が大きく改善し、「慢性疾患のひとつとさえ言われる」と指摘。「HIVのための特別な感染対策は必要ない」とした上で「世の中には未知の感染症もあり(中略)すべての患者に対して血液、体液は感染源となると判断して対応しなくてはいけない」として、標準予防策(スタンダードプレコーション)の実践を強調している。

 市歯科医師会の芹沢孝昌会長は「一部の歯科医にはいまだにHIVが特別であるかのような誤解があるのは確か。これを機会に正しい知識を持ってもらうように啓発に努めていきたい」と話している。

 患者は朝日新聞の取材に「HIV検査を受けず、感染の事実にすら気づいていない人も多いのではと思う。誰もがきちんと検査を受けて治療し、感染を申告しても不利益を受けない環境を整えるべきだ。『診療拒否』では解決につながらない」と話している。

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