「慶大歯学部」誕生へ コロナ、少子化が促す連携・統合  :日本経済新聞


「慶大歯学部」誕生へ コロナ、少子化が促す連携・統合

慶応と東京歯科大の合併・統合構想は医学部と歯学部という補完性の高い組み合わせで、歴史的に親密な関係が下地にある

慶応義塾と東京歯科大学が法人合併と歯学部の慶応大への統合に向けて協議を始めた。順調なら2023年4月に「慶大歯学部」が誕生する。少子化と新型コロナウイルス禍で大学の経営環境は激変し、他大学との連携・統合にどう向き合うかは避けて通れない課題になる。今後、様々な形で議論が加速しそうだ。

26日の両法人の発表によると、慶応のメリットは主に(1)医科歯科連携の強化などにより研究力や教育力が高まる(2)医・歯・薬・看護医療の医療系4学部がそろい、学際的な教育研究を推進できる(3)高校から内部進学する生徒の学部選択肢が増える――の3点になる。

医・歯の両学部を持つ国立大の学長は「学生が早い段階からチーム医療を経験できるなど、医療全体を総合的・横断的に教育研究できるようになる意義は大きい」と評価する。歯学部にも進めるようになれば、傘下の中学高校などの生徒募集の裾野も広がる。

ただ、歯科医は供給過剰とされ、国は歯学部の新設を認めない方針をとる。慶応も自力ではつくれない状況にあった。

東京歯科大は歯科医師国家試験の合格率も高く、歯科大の有力校の一角を占める。コロナ禍で一般に大学病院の経営は厳しいが、財務内容などに「特段の問題はない」(慶応)。

リベラルアーツ(教養教育)にも力を入れ、関係者によると、総合大との連携や合併を探っていた。創設者は慶応義塾出身で慶応との縁は深い。病院の医師人事や教育活動で協力関係にあり、数年前には慶応に白羽の矢を立てていたという。

11月6日、慶応に正式に合併を申し入れ、26日の慶応の評議員会で協議開始が決まった。

今回の構想は医学部と歯学部という補完性の高い組み合わせで、歴史的に親密な関係が下地にある。同様の動きが直ちに広がる可能性は低そうだが、広い意味での連携・統合は大学界共通の経営課題になりつつある。

理由の一つはコロナ禍だ。オンライン教育が普及し、学生が他大の授業を受けやすくなった。全授業を自前で用意する必要がなくなり、コスト削減や経営資源集中につながる可能性がある一方、教育の質や大学の独自性の確保が問われる。

18歳人口も再び減少局面に入る。文部科学省の推計では大学進学者数は既にピークを過ぎ、40年には約51万人と現在の8割程度に縮む。学生確保は一段と厳しくなる。

日本私立学校振興・共済事業団によると、19年度で4年制私大の3割が入学定員を満たせていない。7月には音楽大の上野学園大(東京・台東)が来年度からの大学部門の募集停止を発表した。

文科省は政策で連携・統合を促す。私大間の学部譲渡をしやすくする昨年の制度改正に続き、地域の国公私立大が設置者の違いを超えて連携する枠組みとして「大学等連携推進法人(仮称)」の制度を近く創設する。

連携法人が複数の大学のハブとなり、授業科目を共同で開設したり、教員養成課程を共同運営したりする。各大学が強みを持ち寄ることで、質の高い教育を効率的に提供するのが狙いだ。

大学を取り巻く環境は混沌としているが、他大学との協業も、経営努力による単独での生き残りも、決めるのは大学自身だ。そのための猶予期間は刻々と過ぎている。

(編集委員 中丸亮夫、秦明日香)