Watson活用やウエアラブル×介護、歯科VRまで


【アンター】医師同士のQAとAIの回答を同一サービスで

 最初に登壇したのは、医師同士の情報共有プラットフォーム「Antaa QA」などを運営するアンター 代表取締役の中山俊氏。Antaa QAは、整形外科医でもある中山氏が経験した「医師は専門分野以外を診察するケースも多い」という現状を踏まえて開発したiOS向けのスマホアプリだ。

アンターの中山俊氏
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 中山氏は「医師にも分からないことは多い」と語る。これを解決するために重要なポイントとなるのが「情報共有」。そこでAntaa QAでは、医師同士のコミュニケーションネットワークを構築して知識を共有するとともに、米IBM社の「Watson」を活用した情報提供を実現している。

 医師が現場で情報収集する際、「実際にはGoogleなどで調べているケースは多い」と中山氏は指摘する。しかし、「Googleでは不便な面も多く、それなら医者同士で話し合った方がいい」(同氏)というのがAntaa QAの着想だ。

 Antaa QAでは実名制を採用。幅広い専門領域に渡る医師が登録しているという。「24時間以内の回答率は98%、2時間以内でほぼ全ての質問に回答がつく環境ができている」(中山氏)と語る。

 Antaa QAの質問内容を調べたところ、3割が医薬品に関するものだったという。医師が医薬品で知りたい内容は、厚生労働省が出している薬の取扱説明書である「添付文書情報」に記載されているケースが多い。そこで、Watsonを活用して欲しい情報のみ切り出してくる仕組みを構築した。機械学習でその精度を高めているとする。

 このようにAntaa QAでは、医師同士のQ&AとAIによる回答を同一サービスで同時に提供している。「これらを徐々に組み合わせていくことで、サービスを成長させていく」のが中山氏の狙いだ。今後、「医療情報を正確かつ瞬間的に返せるサービスを目指す」と語った。

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【Ubie】「少ない質問で高精度に病名を推定」

 次に登壇したのは、症状から病気を推定するスマホアプリ「Dr.Ubie」を提供するUbie共同代表取締役の久保恒太氏。Dr.Ubieは、「患者は症状から適切な対処法を選択できない」(同氏)という課題から生まれたもの。ユーザーが質問に答えていくだけのアプリである。

Ubieの久保恒太氏
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 病気を推定するサービスは他にもあるが、Dr.Ubieは「少ない質問でも、高精度に病名を推定できる」(久保氏)のが特徴だと説明する。1400の症状と400の病気が登録されており、各文献から4年間蓄積した病名予測の最適化データに対して機械学習の手法の一つ「Bayesian network」を使って推定しているという。

 一方、病院向けのサービスとして、患者がタブレット端末で入力したデータを医師が共有・活用できる「AI問診Ubie」を展開している。患者が質問に答えると、「医師は症状のサマリーや病気の確率をチェックできるほか、カルテへの出力にも対応する」(久保氏)。さらに製薬企業向けには、個人用として症状に合わせた医薬品の広告を表示するサービスと、医師向けに医薬品の広告を表示するサービスを進めている。

 最後に久保氏は、「世界中の人々を適切な医療に案内する」という自社のミッションを提示。医師と患者の間にある医療情報格差の存在を指摘し、「それを是正して適切な医療に導くことで、医療コストなどの問題を打破していく」と語った。

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【Moff】ウエアラブルを使って機能訓練

 続いて、ウエアラブルトイ「Moff Band(モフバンド)」を手掛けるMoff 代表取締役の高萩昭範氏が登壇。Moff Bandを活用した介護施設事業者向けの自立支援・回復サービス「モフトレ」を紹介した。

Moffの高萩昭範氏
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 モフトレは、機能回復訓練のプランニング実施記録を自動化できるほか、機能訓練プログラムの配信、結果データの分析などにも対応する総合的なサービス。高萩氏によれば、サービス誕生の背景は「介護保険制度の改正」。介護施設事業者によっては制度で重視される自立訓練(機能訓練)への体制が整っていないという現状や、入居後の運動機能低下や認知症の悪化という課題から、「その対応に貢献できればと考えた」(同氏)。

 モフトレではトレーニングコンテンツがアプリで配信され、入居者はMoff Bandを身に着けてトレーニングを実施する。その結果に応じて、次のコンテンツを提供する仕組み。実際のコンテンツは「介護保険制度の機能訓練1と2に対応する」(高萩氏)。結果はタブレット端末に表示され、介護施設が利用できる。

 モフトレの魅力は、理学療法士や作業療法士のいない施設でも十分な機能訓練を実施できるということ。さらに、認知症の入居者に対しても運動介入ができるのもポイントで、実際にデイサービスが利用したケースでは「回を追うごとに入居者が自分自身の意思でやるようになった」(高萩氏)という。リズムを意識して可動域が広がっているデータが蓄積されていることから、「見える」化が可能になるのも特徴だ。

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ベンチャー4社競演、「Digital Health Meetup Vol.8」レポート

近藤 寿成=スプール

【BiPSEE】VRで不安を軽減し前向きな意識を高める

 最後に登壇したのは、歯科VRプレパレーション(不安などを抑えるケア)を展開するBiPSEE 代表取締役の松村雅代氏。心療内科医でもある松村氏が医療現場で感じたのは、「患者が受診に受け身になると、不安や抑うつ、痛みが増しているのではないか」という点だ。この解決策は明快で、「不安や恐れを軽減し、患者本人の能動的な行動を後押しして成功体験につなげること」だと村松氏は指摘する。現在は、仮想現実、いわゆるVRを活用した歯科VRプレパレーションによって、その試みを小児歯科治療で進めている。

BiPSEEの松村雅代氏
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 歯科VRプレパレーションは、ヘッドマウントディスプレイに映し出される2D画面の位置を操作することで、子供の姿勢を歯科医の望む位置に誘導することが可能。映像に夢中になっている子供は不安や恐れが軽減されるだけでなく、治療が上手くできたたという「自己効力感」も生まれるため、「『次の治療も頑張る』や『虫歯にはならないぞ』という気持ちも芽生える」(村松氏)という。

 BiPSEEは、この歯科VRプレパレーションを歯科医院に提供。歯科医院にとっては、子供だけでなく家族全体の新患やリピーターの増加を狙えると語る。「VRで『癒える力』『治る力』を引き出し、高める」(村松氏)というアプローチによって、今後は予防歯科分野への導入やグローバル展開も視野に入れている。

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