予防歯科で健康寿命長く 日吉歯科診療所・熊谷理事長
予防歯科で健康寿命長く 日吉歯科診療所・熊谷理事長 (東北のキーパーソン)
- 2018/2/14 1:31
- 情報元
- 日本経済新聞 電子版
山形県酒田市に予防歯科で知られる歯科医師がいる。日吉歯科診療所の熊谷崇理事長(75)。横浜市日吉で開業していたが、1980年、夫人の出身地である酒田市に移住して歯科診療所を開業、以来38年にわたって酒田市民3万人を診た。指導を受けようと全国の歯科医師らも集まる。
――現状について「歯科医療の敗北」と指摘されています。
「従来の歯科医療では口腔(こうくう)の健康は守ることができていない。後期高齢者の9割が入れ歯になっている。80歳では10本前後しか自分の歯は残っていない。80歳で自分の歯20本以上を保とうという『8020(ハチ・マル・ニイ・マル)運動』があるが、自分の歯28本すべてを残す『KEEP28』が目標であり、本来の歯科医療だ」
「歯医者にかかっている人ほど状況はひどい。やたら『削る』『詰める』『かぶせる』の治療が行われ、しかも患者は喜ぶ状況にある。今の歯科医療はおかしい。大学教育も制度設計も見直す必要がある」
――予防歯科とは。
「虫歯、歯周病が歯をなくす大きな理由だが、これらは細菌由来のバイオフィルム感染症の一つだ。歯科衛生士が定期的に除去する必要がある。しかし、患者自身の日常のホームケアがよくないと効果がない。歯科医師の治療、衛生士の指導と定期的なメンテナンス、患者自身のホームケアの3つがトータルでそろうことで、歯の健康が維持される」
――関心をもったのはなぜですか。
「横浜で治療していた時は、患者のニーズや意識も高くおカネもかかるので、自身で口腔ケアしようという人も多かった。ところが酒田へ来て保険診療を始めると、子供から大人まで口の中の状態は惨憺(さんたん)たる状況だった。歯石はたまっているし、詰めたりかぶせたりしている治療もうまくいっていない」
「横浜でやっていた質の高い治療をしていれば済む状況ではなかった。患者との関係、衛生士の教育なども含め診療体制を見直すため、もう1回勉強し直す必要に迫られた。米国やスウェーデンの先生から学び直した」
――当初は苦労も多かったですか。
「患者さんには拒否された。患者さんは『この歯を抜け、入れ歯にしろ』とやってきた」
――今や市民の理解が深まり、全国の歯科医師らも酒田へ学びに来ます。
「そうなったのは1990年ぐらいから。歯科医師、歯科衛生士など年間1500人ぐらい来ている」
――口腔ケアは健康寿命にも関わります。
「歯はボケ防止や糖尿病などにも関わっている。歯が維持できると、多くの人が健康寿命を延ばせる可能性がある。医療費も抑制できる。これが最終目標。歯がないというのは動物だったらエサがとれなくて死ぬことになる。これまでの歯科治療は健康寿命を短くしている可能性がある」
(聞き手は山形支局長 菊次正明)
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