【群馬発 輝く】アイ・エス・プライム 初めて舞い込んだアプリの制作依頼は地元の歯科医師会からだった。


■業務「省力化」ソフトウエア・アプリ開発

 キーワードは「省力化」と「改善」-。企業の業務効率化を支援するハード・ソフトウエア開発会社「アイ・エス・プライム」は、絹の名産地である群馬県桐生市の中心街にオフィスを構える。2010年に起業、各業種のニーズに応え、休むことなくソフトウエアやアプリを提供している。

 ◆素人目で無駄を発見

 石原則和社長(48)は地元の工業高校を卒業後、大手電機メーカーに就職、生産ライン用機材の設置などを担当する「生産技術部」に配属され約7年半勤めた。ホームビデオやカメラなどが普及し、市場が拡大していた当時、作業者の熟練度によって生産効率にムラの生じる点などが課題だった。そこで必要とされたのが同部門で「人件費などを減らすような省力・省略化、効率化を図る部署だった」。無駄を見つけ、改善を図る、この部署で培った感性が現在の仕事にもつながっている。

 桐生市内にあるソフトウエア会社への転職を経て、「もっと好きなことをやりたい」と7年前に起業した。同市の起業支援策である「インキュベーションオフィス」でパーティションに仕切られた小さな部屋から事業を始めた。以前の職場から仕事も取引先も一切引き継がず、当初は「やることがなく、お客さんもゼロだった」。

 iPhone(アイフォーン)やiPad(アイパッド)が流行し始めた当時、電機メーカー勤務時代と同じく、機械制御用の検査機などを開発する傍ら、アプリ開発に着手した。初めて舞い込んだアプリの制作依頼は地元の歯科医師会からだった。

 被介護者らが咀嚼(そしゃく)と同じ顔の筋肉を使うとされる「ぱ・た・か」を発声することで口腔(こうくう)機能を測定する方法「オーラル・ディアドコキネシス」の簡素化を促す歯科医や介護事業者向けの「くちけん」を開発した。

その測定は医師らが高齢者に説明しストップウオッチを持ちながら紙に書いて数え、後から積算するという骨の折れる作業だったが、「くちけん」でその必要はなくなり負担が減った。

 石原社長は「このアプリも歯科医ら先生方の作業を省略化するツール。今までにやってきて染みついていることを実現した一つ」と語る。

 町工場や職人の多い土地柄で育ったこともあり、後継問題などに揺れる企業を「なんとか生き残らせたい」との思いは強い。相手のニーズをくみ取るため、準備は入念に行う。どんな業種がクライアントでも職員に同行し、一緒になって仕事をする。「素人の自分だからこそ気づけることがあると思う。同じ色の作業着を着て仲間になり、潜り込むところから始める。企業の負担を軽くできたとき、一番やりがいを感じる」と語る。

 ◆ペットから着想

 14年夏、捨て猫を拾ったことが新ビジネスにつながった。すぐに大の猫好きになり、伝統的なキャットハウスともいえる新潟県の民芸品「猫ちぐら」を購入しようとしたが、注文から7年待ち…。デザインが秀逸で安全性にも問題がない国産キャットハウスが少ないことに気づき、翌年に「ビットカプセル」を立ち上げ、自ら製作に取りかかった。ペット用品ではなく空間演出として提案し、写真共有アプリ「インスタグラム」などSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で映える商品を目指している。

 将来的に、2社の強みが交わる可能性もある。これまで培ってきたITの力でペットの健康管理をする-。夢は広がる。(吉原実)


【会社概要】アイ・エス・プライム

 ▽本社=群馬県桐生市本町3-5-3 (電)(0277・46・7608)

 ▽設立=2010年4月

 ▽資本金=300万円

 ▽従業員=4人

 ▽売上高=3000万円(17年度見込み)

 ▽事業内容=ソフトウエア開発・ハードウエア開発

                ■ □ ■

 □石原則和社長

 ■双方が困っていることを解決したい

 --社名の由来は

 「アイはインフォメーション、イノベーション、エスはシステム、サービス、プライムは最高のという意味でこの名前にした」

 --パッケージ商品も販売しているのか

 「ほぼ全て個別対応。営業をしているわけでもなく、口コミで顧客を紹介してもらう」

 --今までアプリを提供した業種は

 「建築、土木、ガス、歯科医、アパレルなどの小売りも」

 --猫製品を手がける「ビットカプセル」として今後、挑戦したいことは

 「次は健康管理に挑戦したい。猫は腎臓病にかかることが多く、トイレの回数や水を飲んだ量で判断できるため、センサーを設置して極端に回数が減るなど異変を検知した場合、飼い主のスマートフォンに伝えるシステムを作りたい。助かる猫も増えると思う。まさに本業が生かせる」

 --他社の取り組みで参考になるものや共感したのは

 「双方が困っていることを解決する、そういった仕事がやりたい。月極駐車場のオーナーと契約し、空いているスペースを一般向けに貸し出す事業を行う『akippa』(あきっぱ)の事業はすばらしい。都内などでは、満車でどこにも止められないということがたびたびある。akippaはそこに目をつけた。オーナーさんには増収になるし、一般のドライバーは余裕をもって車を止めることができる」

--将来的な東京進出は

 「本社を桐生から離すことはない。営業所を東京に置くことはあるかもしれない。ただ、地元には大変お世話になった。もっと会社を大きくして、積極的に採用できるようにしたい。できれば社員も“群馬県産"でそろえたい(笑)」

                  ◇

【プロフィル】石原則和

 いしはら・のりかず 桐生工業高を卒業後、大手電機メーカーに就職。ソフトウェア開発会社へ転職後、2010年に起業。48歳。群馬県出身。

                ■ □ ■

 ≪イチ押し!≫

 ■インテリアとしてのキャットハウス

 地元桐生の名産品である生地を使用したピーナツ型のキャットハウスは2016年の「グッドデザインぐんま」に選ばれた。1枚布を袋状に縫い合わせたトンネル型になっている。洗濯が可能でペットを清潔に保てる。

 「道楽というか趣味のようなかたちで始めた」というキャットハウスの製作だが、こだわりは多い。

 自身が使用するために中国製キャットタワーを購入した際、飛びだした金具で猫がけがをした経験があり、たとえ割高になっても、国産にこだわる。

 「ペット用品ではなく、目指しているのはインテリア」と石原社長は語る。

 現在、県内のだるまの製作を手掛ける張り子業者やハンドメードギターの会社に発注し、高級キャットハウスを製作中だ。